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      コンプライアンスは企業にとって重要な経営課題の1つであり、持続的な企業価値向上を目指すうえで欠かすことのできない取組みです。しかし現実には、意図的な不正行為のみならず、無知や過信から、意図せず法令違反を起こしてしまう事例があとを絶ちません。これらが表面化し、企業の信頼が揺らぐ不祥事に発展した例も多く見受けられます。

      KPMGでは、「事例に学ぶ企業コンプライアンス最前線」と題して、コンプライアンス違反が発生した際の適切な対応策や違反を未然に防止するための予防策について、身近な事例における特定の登場人物の経験・成長を通じて、実践的な知見を提供します。

      連載初回となる本稿では、法令違反や不正行為等のコンプライアンス※1違反が発生した際の有事対応や、違反を未然に防止するために平時に行うべき予防策の全体像を解説します。

      なお、本文中のコンプライアンス違反事例は、架空のものであることをお断りします。

      コンプライアンス違反事例

      まずは、ある大手事業会社における、法務部の部長と新卒2年目の社員(大野)の会話をご覧ください。

      部長:大野さん、今月1日に社長からメールで一斉送信された全社メッセージは見ましたか?

      大野:はい。同業他社で不祥事が相次いでおり、自社の事業活動やレピュテーションを守るために一層コンプライアンスに力を入れていくという話だったかと。

      部長:そうだね。うちは法務部がコンプライアンスの業務も担っているから、部内の業務が増える一方だ。全社メッセージが出た後に社長から、一刻も早くコンプライアンス違反を予防する取組みに着手してほしいと言われたけれど、定常業務もたくさんあるなか、正直難しいと感じている。当社は創業以来一度も不祥事を起こしていないし、コンプライアンスとあえて言わなくても、社員を信頼していると社長が言ってくれればそれで済む話だと、個人的には思うけれどね。

      大野:そうは言っても社長直々の命令ですし、やらないわけにはいかないですよ。とはいえ、私もコンプライアンス強化に向けた取組みに詳しいわけではないので、いろいろ勉強する必要がありますが。

      部長:それなら勉強を兼ねて、コンプライアンス違反を予防する取組み以外にも、不祥事対応の全容を今日の午後までに調べて報告してもらえないだろうか?

      大野:わかりました。インターネットで調べられる限りになりますが、やってみます。

      -その日の午後

      大野:部長、調べてみたところ、コンプライアンス違反を予防するために必要な取組みは多岐にわたるようです。たとえば、遵守すべき法令を洗い出して業務フローに組み込み、個人の取組みに依存しないような体制を作ることが必要だそうです。さらに、万が一不祥事が発生した際には、初動対応から再発防止まで、数多くのタスクを同時並行でこなす必要があるようです。たとえば不祥事の事実調査は、法務やコンプライアンス部門だけでなく全社で対応することが必要だそうです。

      部長:報告をありがとう。この法務部の限られた人員では難しそうだと思っていたが、やはり全社対応が必要なのか。経営企画部や事業部門との調整が大変そうだ。そもそも、違反が起きた際の対応は、不祥事を多く起こしている企業が考えるべきものであって、果たして当社に必要なものだろうか。

      大野:今まで不祥事がなかったからこそ、一度不祥事を起こしてしまうと、うちの企業イメージは大きく傷つくのではないかと私は考えています。不祥事が起こってから考えるのではなく、現時点から不祥事の発生を想定して計画を立てておくべきではないでしょうか。

      部長:大野さんの言うことは間違っていないけれど、他部署を交えた検討は本当に難しいからね…。

      -その時、部長Aの社用スマートフォンの着信音が鳴る。

      部長:知らない番号だ。迷惑電話かもしれないが、個人の携帯からかけてきているみたいだから、どこかで名刺交換した人かもしれない。

      部長は応答ボタンを押して、スマートフォンを耳に当てた。彼が言葉を発するより前に、電話の主はこう切り出した。

      電話の主:お忙しいところ恐れ入ります。私は週刊誌XYZマガジンで記者をしている者です。弊誌の今週発刊号に掲載予定の御社コンプライアンス違反疑惑についてお話をお伺いできないかと思い、お電話差し上げたのですが…。

      (次回へ続く)

      本事例の解説

      企業は常に法令を遵守し、良識に従って事業活動を行うことが求められています。法令違反や不正行為といった不祥事※2が発生すると、企業は信用を失い、最悪の場合、事業活動の継続が困難になります。そのため、不祥事の未然防止や有事の際の適切な対応は、企業にとって重要な経営課題の1つであると言えます。

      企業の内部起因での不祥事には、顧客が使用するうえでは事故や問題が起きないはずだという“過信”から一部工程でのデータ捏造や偽装表示など意図的に行うものや、法定検査の要件を理解せずに製品検査をスキップしていたなどの“無知”、前任者や先輩から業務を引き継いだ業務だから問題ないという“継続”から意図せずに行うものなどがありますが、いずれの場合においても、企業は迅速かつ適切に対応する必要があります。

      不祥事への対応を誤ることは、企業価値のさらなる毀損につながってしまうため、会話の中で大野さんが言及していたように、不祥事の発生に備えて、有事・平時対応の全体像を理解し、準備をしておくことが重要です。

      【有事・平時対応の全体像】
      Japanse alt text: 企業コンプライアンスにおける有事・平時対応の全体像 出所:KPMG作成

      (1)有事対応の概要

      有事対応は、企業が不祥事に直面した際に、事業活動や企業イメージへの被害を最小限に抑えるために必要な一連の取組みを指します。有事対応は、「初動対応・事実解明」「事態収拾」「再発防止計画・事業正常化」の3段階に大別することができます。被害軽減のためには、複数の対応事項を短期間に同時並行で進めることが求められます。

      「初動対応・事実解明」段階では、体制整備、公表判断、事実調査といった論点を検討します。特に、体制整備はその後の有事対応を左右する重要な論点であり、検討には慎重さと迅速さの両方が求められます。事実調査では、対外公表やステークホルダーへの説明といった次のアクションにつなげるために、不祥事の事実関係や原因を明らかにすることが重要です。そのためには、調査を行う第三者と企業側の緊密な連携が不可欠となります。

      次に、「事態収拾」段階では、リスク・シナリオ分析、対外公表、ステークホルダー説明といった論点を検討します。事実調査の結果を基に、株主、従業員、顧客、当局などのステークホルダーに対して説明責任を果たすと同時に、次のアクションである再発防止計画の策定を見据えて、企業が直面し得る将来シナリオを複数想定し、高リスク事象とその要因の洗い出しも行います。

      最後の「再発防止計画・事業正常化」段階では、再発防止計画、事業再生、訴訟・補償対応といった論点を検討します。いかに実効性の高い再発防止計画を立案し、着実に事業再生に向けた取組みを進められるかが重要となります。

      (2)平時対応の概要

      一方の平時対応は、事業活動のなかでコンプライアンス違反を未然防止または早期発見するために必要な一連の取組みを指します。平時対応の基本的な考え方は、人員やシステム・設備などのリソース状況を考慮したうえで、遵守すべき法令を把握し、違反リスクの高い法令から順に対応していくリスクベースアプローチです。

      まず、自社に適用される法令および要求事項を整理し、そのうち違反リスクの高い法令から順に現状の対応状況を評価し、必要に応じて改善することが重要です。不祥事を起こした企業の場合は、再発防止策と並行してその他のコンプライアンス違反を起こさないよう平時対応を進めていくことになります。

      同時に、継続的な法令遵守を実現するための体制作りにも着手することが望ましいです。特にグローバル企業の場合、日本国内だけでなく事業を行う国々での平時対応が必要であり、社内で法令遵守活動を指揮し推進する組織・チームの存在は欠かせません。

      さらに一歩進んで、コンプライアンス意識の高さを自社の強みとすることにより、積極的な企業価値向上を目指す発展的な取組みも考えられます。たとえば、内部通報体制の構築といった早期発見・未然防止の取組みに注力し、従業員のコンプライアンス意識を醸成することは、不祥事の発生しづらい企業文化の構築につながり、レピュテーションの向上にも寄与します。

      また、現行の規制や標準などの“ルール”が企業実務と乖離しているような場合に、企業が自ら“ルール”の形成を主導し賛同者を集めていくことは、過度な規制の緩和による事業環境の改善や新事業の創出につながり、市場における競争優位性の確保が期待できます。

      まとめ

      本稿では、有事・平時対応の全体像を概観してきました。近年でも、企業における人権侵害事案への不十分な対応、政府補助金の不正受給、検査不正など、さまざまな不祥事が発覚しています。こうした不祥事は、企業価値を毀損し、ステークホルダーの離反を招く可能性もあるため、コンプライアンスは、法務部のみならず経営層や事業部門が一体となって取り組むべき重要な経営課題の1つであると言えます。

      次回以降では、具体的な取組みの進め方について詳細に解説していきます。


      ※1 本稿において、「コンプライアンス」は法令と社会規範の両方に従うことを指し、特に法令に従うことを「法令遵守」と呼称する。

      ※2 本稿において、「不祥事」とは、本記事の想定対象とする企業のコンプライアンス違反行為のうち、世間に公表され、企業価値やイメージを大きく毀損するものを指す。また、コンプライアンス違反行為のうち、それ自体が法令に抵触するものを「法令違反」と呼称する。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      執行役員 パートナー 土谷 豪
      アソシエイトパートナー 馬場 智紹
      マネジャー/弁護士 長瀬 亮介
      コンサルタント 大野 康晴

      企業コンプライアンスにおける有事・平時対応の全体像

      今後の掲載予定は以下になります。ぜひご覧ください。

      回数

      タイトル/テーマ(仮)

      第1回

      (導入)企業コンプライアンスにおける有事・平時対応の全体像 ※本稿

      第2回

      (有事)危機発生時に企業の初動対応で信頼は守れるか?

      第3回

      (有事)企業コンプライアンスにおける事実解明とその手法

      第4回

      (有事)企業の信頼回復戦略 謝罪・説明・そして再建へ

      第5回

      (平時)企業の法令遵守チェックリスト

      第6回

      (平時)グローバル企業のガバナンス 国内外の違いと対策

      第7回

      (平時)企業風土改革の実践 コンプライアンス文化を根付かせる

      第8回

      (平時)ルールメイキング 守りのコンプライアンスから攻めのコンプライアンスへ

      土谷 豪

      執行役員 パートナー

      KPMGコンサルティング

      重要な経営課題の1つでありながら、起きてしまうコンプライアンス違反。意図しない“無知・継続・過信”からの脱却のためのポイントを解説します。

      KPMGは、クライシスマネジメント態勢の構築や、BCM/BCPの策定に加え、危機が発生した場合の対応までをワンストップで支援します。

      工場・製造現場におけるコンプライアンスについて、品質、環境、労務・安全、情報管理等の各種法規制対応の高度化・効率化を支援します。

      経営戦略および現場業務と表裏一体である法令遵守を徹底するため、「法令起点×現場の業務プロセス」による俯瞰的な調査を支援します。

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      KPMGコンサルティング

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