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      本連載は、2025年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

      昨年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、2040年度のエネルギー需給見通しについていくつかのシナリオが示されました。なかでもエネルギー需給における革新技術のコスト低減と脱炭素化が進展するシナリオでは、電気自動車(EV)やプラグインハイブリット車(PHV)の導入が進むこと等により、運輸部門の電化率は35%と2020年度の2.3%から大幅に上昇し、電力消費量は99TWhに上るとされました。これは国内の総消費電力量の約9%に及んでいます。

      これだけのEV普及は電力システムの在り方にも影響を及ぼします。2023年度に開催された経済産業省の「EVグリッドワーキンググループ」では、EV普及がエネルギーの有効利用や電力系統の課題解決にも貢献することへの期待が示されました。その後民間事業者間で開催された「EV―Grid連携・活用検討会」では、電力系統におけるEV活用のユースケースとして、(1)スマートチャージング、(2)アグリゲーション・BG(バランシンググループ)運用、(3)需給運用、(4)系統運用の4つの可能性があることが示されています。(図表参照)

      【EVリソース活用のユースケース】
      Japanese alt text: EV普及がもたらす電力ビジネスのフロンティア_図表1 出所:公表資料からKPMG作成

      「電池で走る自動車」つまり充電による電力需要としてのEVは、主に充電タイミングを制御することで所有者の電気料金を削減したり、所有者の家庭等への放電(V2H:Vehicle to Home)により停電時の電力活用を実施すること((1)スマートチャージング)、所有者に電力を供給する小売電気事業者が、充電タイミングを制御することで、事業者にとっての電力調達コストを削減すること((2)アグリゲーション・BG)等が期待できます。小売電気事業者が卸価格の低い時に安くなる電気料金メニューを提供すれば、所有者のインセンティブを通じて、これらの達成を促せることができます。

      また、EVは「動く蓄電池」として、充電した電力を電力系統に逆潮流させるV2G(Vehicle to Grid)での活用可能性も有しています。放電を上手く制御することで、需要の急減・急増や再エネ発電量の急激な変化に対して必要になる系統全体への需給調整能力を提供したり((3)需給運用)、ローカルな配電系統における電圧の変動を抑制したりする((4)系統運用)こと等が期待できます。

      EVを発電設備や蓄電池のように分散型リソース(DER)として活用することは、「EVと電力システムの統合」として世界的にも検討が進んでいます。国際エネルギー機関(IEA)の報告書でもEVとグリッドの統合が取り上げられ、V2G活用に向けたさまざまな取組みが紹介されています。

      しかし、EVの普及が進みさえすればこうしたことが実現するわけではありません。電力需要側での活用は現状でも可能である一方で、電力供給側(V2G)でのEV活用にはまだ多くの課題があります。繰り返しの充放電により車載電池の劣化が進むこと、放電を可能にする充放電器のコストが高いことといったハードウェアの課題、充電の規格や充放電を制御する通信等に関する規格やソフトウェアの課題、充放電を促す料金体系やEVのような小規模リソースを束ねるアグリゲーションビジネスの不十分さ、さらに、配電系統の混雑緩和、電圧調整の価値について、日本では評価、取引されていないこと等です。

      こうした課題の解決には、多くの関係者の努力が必要です。蓄電池メーカー、自動車メーカーだけではなく、電気料金メニューや低圧リソース向けのアグリゲーションサービスを提供する小売電気事業者・リソースアグリゲーター、電力系統を運営する送配電事業者、規格を設定する業界団体や規制機関等の取組みにより、V2Gビジネスは、電力領域でのフロンティアとなるのです。

      日刊自動車新聞 2026年1月15日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      エネルギーセクター
      リードスペシャリスト 桑原 鉄也

      「自動車産業が拓く次の一手~変化を駆動力に~」第9回

      乗用車におけるソフトウェア展開の難しさや収益構造に与える影響について解説します。

      不確実性が高い環境下において、自動車産業が取り組むべき対応について、テーマ別にさまざまな視点から解説しています。

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