欧州連合(EU)で「包装及び包装廃棄物規則(PPWR)」が2025年に発効し、2026年から段階的に適用が開始します。2030年の「全ての包装をリサイクル可能に」という目標に向け厳格な要件が一斉に課され、対応の遅れはEU市場でのビジネス継続に悪影響をもたらします。
本稿ではPPWRの概要と主たる論点を整理し、EUにサプライチェーンを持つ日本企業のベストプラクティスを解説します。
1.PPWRの背景と狙い
PPWRは欧州グリーンディール政策の中で「循環経済行動計画(CEAP)」に基づき起草された包装分野の法規制です。
欧州では、近年、包装廃棄物が経済成長以上のペースで増加し、2021年の実績データではEU全体で年間8,400万トン(2010年比+24%)に達しました。さらにコロナ禍以降、Eコマースやテイクアウト需要も増加しています。こうした背景もあり、包装分野での循環経済(サーキュラーエコノミー)を実現するため、環境目標と市場統一ルールの両立を図るべく、包装廃棄物指令(94/62/EC)を全面的に見直し、各国に直接適用可能な規則として制定したのがPPWRです。
PPWRの目的
PPWRの目標は、包装廃棄物の発生を抑制し、再利用や高品質リサイクルを可能にする持続可能な包装設計を普及させ、さらに加盟国間で統一された制度のもとで企業の規制不確実性を低減しながら、EU全体の循環経済と2050年の気候中立実現を加速させることです。
環境保護と健康への配慮
- 1人当たりの包装廃棄物量を2018年比で段階的に削減(2030年5%、2040年15%)
- 包装の最小化設計を義務付け、過剰包装を規制
- 鉛、カドミウム、PFASなどの有害物質を最小化し、環境と健康を守る
域内市場の調和
- これまでの「指令」から「規則」への格上げにより、加盟国間のルール差異を解消し、自由な流通を確保し、EU内でのルール統一を図る
サーキュラーエコノミーへの移行と気候中立
- 再利用(リユース)および詰め替え(リフィル)を促進し、使い捨て習慣を打破する
- 2030年までにすべての包装をリサイクル可能にし、リサイクル性能等級(A〜C)を導入
- 2035年から「大規模リサイクル」を義務付け、実効性を確保
- プラスチック包装への再生材含有を義務付け、バージン材の使用を削減
- これらを通じて、遅くとも2050年までの気候中立(ネットゼロ)達成に貢献する
2.PPWRの主要要件と適用スケジュール
PPWRでは2026年8月から一部の義務の適用が開始され、2030年までに企業が満たすべき持続可能性要件や数値目標が順次適用されます。わずか4年の間にさまざまな義務事項への対応が必要なため、計画をたて、早期に準備していくことが重要です。
以下に、主たる義務事項の適用スケジュールの概観をまとめます。
企業の対応を要す義務事項を俯瞰すると、以下のように「設計」「材料」「運用」「情報管理」と、単独の部門だけでの対応は難しく、全社的な対応が必要となることがわかります。
設計:企業は包装設計段階からリサイクルを織り込む必要がある
- 包装ごとにデザイン指針に基づく「リサイクル性能評価」が義務付けられ、性能が低いもの(リサイクル可能率70%未満)は2030年から市場投入禁止
- 2035年以降は「実際に域内で大規模にリサイクルされていること」も要件追加
- 2038年からは性能等級が中程度(70~80%程度)の包装も販売不可
材料:プラスチック製の包装は、内容物や用途に応じて2030年から段階的に目標が設定され、達成できない製品は上市できない
- 使い捨て飲料ボトルや食品容器には2030年までに30%、その他のプラスチック包装も同35%以上の再生樹脂を含有する必要がある(2040年にはこれらが50~65%に引き上げ)
- 医薬品包装やコンポスト可能プラスチック等は例外がるが、多くの製品で再生材調達戦略が不可欠
- 日本企業には特に食品用途での高品質再生材確保が課題となり、化学リサイクル技術の活用やリサイクル事業者との連携が必須
運用:企業は製品ごとの包装仕様を見直し、簡素化・リフィル対応を進める必要
- カテゴリ別に飲料容器やテイクアウト容器、輸送用パレット包装などで一定割合をリユース可能な包装にする目標が設定(詳細は加盟国で制度設計)
- 2030年までに過剰包装を排除するため、製品保護に不要なスペースや多重包装は禁止
- 通信販売やまとめ買い用の箱では空隙率(余分な空間)を50%以下に制限
- 特定の使い捨て包装の形態(例:小分け調味料パックなど)は2030年以降一律使用禁止
情報管理:製品・包装単位でのデータ管理体制の構築が急務
- 2028年夏から段階的に、全ての包装に材質分類の統一ラベル貼付が義務化
- あわせて再使用可能包装には「リユース可能」の表示とデジタルコード(QR等)による追跡情報提供も必要
- 企業には包装ごとの詳細データの報告義務(材質・重量・再生材率・リユース回数など)が課され、各国で2027年前後に整備される新しい生産者登録システムへ定期的な提出が必要
3.日本企業への影響と求められる対応
日本企業も、EU市場に製品を輸出、EUで製造・販売、EU向けに包装を設計・供給する等した場合は規制の直接的な対象となり得ます。加えて、直接的に義務の適用を受けずとも、遵守を図る取引先から要請を受けるなど間接的にも履行を求められる場合もあります。そのため、自社のビジネスが規制の影響を受けるか確認をする際には、直接の適用有無を判断するだけでなく、自社の関与するサプライチェーン全体の目線での精査が必要となります。
こうしたことからPPWRへの対応は、単なる個別規制のコンプライアンス活動にとどまらずサプライチェーン全体の見直しやビジネス機会などのメリットにもつながり得ます。
そうしたチャンスを活かすために、PPWRについて理解しておくべき主要な要件と企業に求められる対応策の例を以下の表に示します。
表中の対応策はあくまで一般的な例示ですが、肝要なのは「早期に対応が必要な義務事項を把握し、優先順位をつけて対策を講じる」点です。
特に製品のポートフォリオが広範な企業ほど、商品の包装仕様・材料を洗い出し、どの分野で規則が適用されるのか、影響が大きいのかを見極める必要があります。その後、早期に社内の関連部門を巻き込み、横断チーム(開発・調達・生産・環境・物流・IT・法務など)を結成し、経営層の後押しのもとで組織横断的プロジェクトとして準備を進めることが望ましいです。
4.まとめ
最後に繰り返しになりますが、PPWR対応は単なるコスト増や規制対応としてだけでなく、競争力強化や価値創造への投資とも捉えられます。
EUではESPRなど複数の包装規制が強化されており、PPWRもそれらと連動する包括的な枠組みとして位置付けられ、企業の域外のサプライチェーン全体にかかわります。この性質を利用し、早期に対応を進めることは、市場アクセスと事業の安定性を確保しつつ、効率性とレジリエンスを高めることにつながり、結果として競争力の強化につなげることができます。
また、本規制は気候変動対策およびサーキュラーエコノミー政策と密接に関連しており、先駆的な取組みを通じて、ブランド評価や投資家からの支持といったメリットも享受できる可能性もあります。
KPMGの支援
PPWRは対象範囲・要求事項は広範にわたり、詳細な規定も段階的かつ複層的に整備されるため、企業にとっての不確実性も内包しています。しかし、だからこそ「早すぎる準備」は存在しません。
KPMGでは、グローバルネットワークを活用し、規制内容の最新動向把握から影響分析、ロードマップ策定、具体的な包装設計や調達戦略の見直し、社内体制づくりまで包括的に支援いたします。日本企業の豊富な支援実績を持つ専門チームが貴社のPPWR対応を加速させ、将来にわたって持続可能なビジネスモデルへの転換をサポートします。お気軽にご相談ください。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 荒尾 宗明
シニアコンサルタント 武田 行平