本連載は、2026年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
SDVは「売った後も進化する事業基盤」
Software Defined Vehicle(以下、SDV)とは、ソフトウエア更新や車両データ活用などにより、車両販売後も機能やサービスを改善し、価値を更新し続ける事業基盤です。本質は、競争軸が「完成時の性能」から「利用中に価値を高める力」へ移る点にあります。
バス事業で学び、タクシー事業で組み、乗用車事業で勝つ
乗用車メーカーにとって、自動運転バス・タクシー事業は、乗用車事業とは顧客も収益モデルも異なる一方、SDVの実装力を磨く場となると考えられます。バス・タクシー事業で蓄積した「車両維持管理方法、運行管理方法等のSDV運用ノウハウ」、「外部事業者との連携・運用体制構築ノウハウ」を乗用車事業へ転用します。「バス事業で学び、タクシー事業で組み、乗用車事業で勝つ」ことは有力な選択肢の1つです。
自動運転タクシー事業は、車両販売から継続収益型への転換を試す場でもあります。一方で、無人化だけで利益が生まれるのではなく、高稼働の確保、遠隔監視の複数台対応、デポ(拠点・車庫)運営等のオペレーション構築力が採算性を決定付けます。
“顧客”と“パートナー”と進める事業構築
タクシー事業者には、配車プラットフォーマーに顧客接点を握られた経験から、自動運転時代の運行体制、データ帰属、顧客接点、収益配分は自ら設計したいとの危機感がうかがえます。米国系・中国系プレーヤーの先行技術を積極的に活用し、早期に運行経験を蓄積することは現実的です。ただし、特定プレーヤーへの過度な依存を避け、車両、システム、データの接続条件を開き、後続参入企業も競争できる環境を残す必要があります。
特に地方では、交通単体では十分な収益性を確保しづらく、地域交通、通信、エネルギー、観光など複数事業を束ねて採算性を確保する必要があり、そのためには地域に継続的な事業基盤を持つプレーヤーとの連携が重要となります。
鍵を握るのは、地域の複数事業を横断して投資・回収できる事業者です。たとえば、地域AIデータセンターなどデジタルインフラを展開する通信・IT事業者と連携し、交通サービスが支えられることによる受益者に対するビジネス機会を得ることができれば、運賃収入だけに依存しない事業モデルを構築できる可能性が高まります。
日本における勝ち筋はすべてを1社で内製することではありません。海外の先行技術を起点に実装を進めつつ、交通事業者や日系企業が参入可能な市場を形成し、その成果を乗用車へ展開することです。SDVとは、モビリティ産業の主導権を守りながら、産業全体の稼ぎ方を再設計する事業戦略です。
日本には、多数の自動車メーカーに加え、幅広いサプライヤー、交通事業者、異業種企業が共存する厚い産業基盤があります。多様なプレーヤーが参入し、技術やサービスを競いながら磨ける環境こそ、SDV時代にも生かすべき日本の揺るがぬ価値であると言えます。
日刊自動車新聞 2026年10月15日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー 宮崎 智也