第586回 企業会計基準委員会(2026年10月20日)
審議の中心:債権の事業モデルに関する追加的な分析及び再提案
第581回 企業会計基準委員会ではIFRS第9号の事業モデルへの移行が検討されましたが、その際、債権については、活発な市場がない場合が多く売却が意図されない場合が少なくないことから、すべての企業に判定を求める実務負荷も考慮して、償却原価での測定を前提とする「回収事業モデル」(第576回参照)のみとすることが提案されていました。しかし、実態を反映しない企業が生じる可能性等を懸念する声があり、適用事例の調査などが要請されていました。
海外事例や本邦におけるIFRS®会計基準任意適用企業での扱いなどを調査した結果、ファクタリング契約などを理由に、債権を「回収及び売却事業モデル」(第576回参照)で保有する企業が一定数見受けられました。このため、そのような事業モデルを忠実に表現できることなどから、第581回の提案を見直し、債権についてもIFRS第9号と同様に、「回収及び売却事業モデル」を設けることが再提案されています。「回収及び売却事業モデル」で保有される金融資産は、IFRS第9号では、SPPI要件を満たす場合、その他の包括利益を通じて時価で測定されます。
過去の企業会計基準委員会
第583回 企業会計基準委員会で取り上げた「個別の定めを設ける候補の金融商品」のうちまだ検討されていなかったものにつき、どのような個別の定めが必要かなどの分析が、前回に引き続き行われています。
ASBJ事務局の分析結果は次の通りです。FVPLとあるのは、純損益を通じて時価で測定するよう、個別の定めを設けることが考えられたものです。
候補となる金融商品(例) | ASBJ事務局の分析結果 |
|---|---|
| 金利改定頻度と参照金利の期間が一致しない債権及び債券等であって一体処理されるもの(例:一部のCMS債)(※1) | FVPL ただし、期間が一致していた場合と比べて割引前キャッシュ・フローが著しく異ならない場合等は反証可能とすることが考えられる |
| 金利改定頻度と参照金利の期間が一致しない債権及び債券等であって一体処理されるもの(例:一部のCMS債)(※1) | FVPL |
| 特定の状況で、国の破綻処理機関が保有者に損失を課す権限を持つ債権及び債券等(例:ベイルイン条項付き金融商品) | 2つの会計処理案が提示された
|
| 利息の繰延条項付きの債権及び債券等 | 繰延利息に追加利息が付かないものは、FVPL |
| 利息の支払停止条項付きの債権及び債券等 | FVPL |
| 偶発的な要素で金利が調整される債権及び債券等(例:サステナビリティ連動金利条件付貸付金) | 契約上のキャッシュ・フローが、契約条件が同等で偶発的要素がない債権及び債券等のキャッシュ・フローと比べて大きく異なる可能性があるものは、FVPL |
| 原資産の稼働状況に連動するノンリコース要素を含む債権及び債券等 | FVPL |
| 原商品プールがSPPI要件(第583回参照)を満たさない、契約上リンクしている債権及び債券等(※2) | FVPL |
| 債券と同様に取り扱われる種類株式 | フェーズ2で検討することが考えられる(このカテゴリーに含まれる種類株式の範囲が見直されることも考えられ、また株式についてはフェーズ2での検討が予定されているため) |
| 信託財産構成物である金融資産の委託者である企業における譲渡金融資産の残存部分(委託者が保有する信託受益権) | フェーズ2で検討することが考えられる(信託受益権はフェーズ2での検討が予定されているため) |
(※1)第583回同様、組込デリバティブの区分処理の対象とならず、一体で処理されるもののみが対象になっています
(※2)ノンリコース要素を有し、トランシェ分けした優先劣後構造を有する金融商品です。ASBJ事務局の分析上、一体処理されるものと仮定されています
第581回 企業会計基準委員会では、「明らかにSPPI要件を満たさないため実効金利法の償却原価で測定することが適さない」金融資産については、個別に時価での測定を求める規定を定めることが検討されました。SPPI要件は契約上のキャッシュ・フローが元本及び元本残高に対する利息の支払のみであることを要求しますが、ここで、利息は「基本的な融資のリスク、コスト及び利益マージンへの対価」であるかがポイントです。
組込デリバティブについて区分処理の定めを残すことを前提とすると、上記に該当する債権・債券等としては以下の性質を持つものが考えられます。
- 区分処理の要件には該当しないが組込デリバティブを内包するもの
- 契約上のキャッシュ・フローに、基本的な融資の取決めと関連がないリスク又はボラティリティを生じさせる要素が含まれているが、この要素が「デリバティブ」に該当せず、区分処理の対象とならないもの
- 利息の支払いについて、発行者に裁量権があるもの
上記を踏まえた検討の結果、個別の定めを設ける候補となる金融商品がリストアップされました。今回は、その一部につき、どのような個別の定めが必要かなどの分析が行われました。
ASBJ事務局の分析結果は次の通りです。FVPLとあるのは、純損益を通じて時価で測定するよう、個別の定めを設けることが考えられたものです。
候補となる金融商品(例) | ASBJ事務局の分析結果 |
|---|---|
| 債務者等の業績に連動する債権及び債券等 | FVPL ただし、業績連動要素による調整が信用リスクの変動を反映するものなら反証可能とすることが考えられる |
| 為替相場に連動する債権及び債券等であって、一体処理されるもの(※) | 以下のいずれかを企業が選択することが考えられる
|
| その他の指標(例えば株価指数。ただし主契約と同一通貨の物価指数は除く)に連動する債権及び債券等であって、一体処理されるもの(※) | FVPL |
| 第三者の信用リスクに係るデリバティブが組み込まれた債権及び債券等であって、一体処理されるもの(※) | FVPL |
| 転換社債型新株予約権付社債 | 新株予約権に合わせ、フェーズ2で検討することが考えられる |
| 変動性を増大させる要素(レバレッジ)を含む債権及び債券等であって、一体処理されるもの(※) | FVPL |
| 市場金利と逆方向に変動する債権及び債券等であって、一体処理されるもの(例:一部のリバース・フローター債)(※) | FVPL |
(※)組込デリバティブの区分処理の対象となるものは、デリバティブ部分を区分して時価で測定し、残りの部分は通常プレーンな債権・債券等となります。このため、表に掲載されている金融商品は、組込デリバティブのリスクが現物の金融資産に及ぶ可能性が低いなどの理由で区分処理の対象とならず、一体で処理されるものを対象としています
現行基準では「有価証券」という区分を設けて会計処理を定めていますが、有価証券にはフェーズ1の対象外となるもの(株式等)が含まれるため、会計基準の体系として「債券」(フェーズ1の対象)と「債券以外の有価証券」(フェーズ2の対象)を区分することが提案されました。
また、フェーズ1の金融資産については、これまでの検討を踏まえ、以下とすることが提案されています。
論点 | ASBJ事務局の提案 |
|---|---|
| 組込デリバティブ |
|
| SPPI要件 |
|
| 分類の方法 |
|
| 公正価値オプション |
|
(※1)保有目的の変更に伴う罰則的な定め。第568回参照
なお、今後の検討事項とされているもののうち主なものは、以下の事項です
- 組込デリバティブの区分処理の要件
- 純損益を通じて時価で測定するように個別の定めを設ける金融商品
- 公正価値オプションの適用範囲(フェーズ1の対象すべてとするか、トレーディング目的で保有する債権のうち「流動性が高く、かつ、時価の算定が容易」という要件を満たさないものに限るか)
公正価値オプションとは、「取消不能の指定」を行うことで、純損益を通じて金融商品を公正価値(時価)で測定する、会計処理上の選択肢をいいます。現行基準には公正価値オプションの定めはありませんが、国際的な基準では導入されています。IFRS会計基準における公正価値オプションでは、その適用に一定の要件があります。
第576回 企業会計基準委員会では、「流動性が低く時価算定が容易でない金融資産であっても、トレーディング目的であれば時価での測定の対象となることは『許容範囲を超える』とも考えられる」との分析が示されました。一方、金融機関では売買目的での債権の引受が増加しており、実務では逆に、時価評価できないことへの問題意識もあります。公正価値オプションは、こうした問題の解決策になる可能性があるほか、ヘッジ運営の多様化につながる可能性があるとの意見も聞かれています。
IFRS会計基準任意適用企業からは扱いに差異がない方が望ましいとの意見もあることに鑑み、日本基準にも公正価値オプションを導入することが検討されています。なお、導入する場合は特段の要件を設けない米国会計基準の扱いとすることが考えられています。また、公正価値オプションは金融資産の発生の認識時の指定が必要で、事後的な指定の取消しは不可とすることが考えられています。
(1)組込デリバティブの扱い
IFRS第9号では金融資産の組込デリバティブは区分処理されず、金融資産全体としてその分類が検討されます。これに対し、ASBJ事務局からは次の分析が示されました。
- IFRS会計基準のアプローチは区分処理が不要となることでコスト軽減につながると考えられる。
- 一方、区分処理するほうが、金融商品に異なるリスク特性を有する要素が含まれるという経済的実態をより忠実に表現できる。また現行基準では、管理上区分している組込デリバティブに任意の区分処理を認めることで、金融機関では会計上のミスマッチを抑制できる効果がある。
- 米国会計基準でも、一定の要件を満たす組込デリバティブは主契約と区分することとされているため、区分処理の定めを残すことも国際的に説明可能である。
ASBJ事務局は、区分処理をしないアプローチと、区分処理を残すアプローチのいずれを優先すべきかは、利害関係者の立場によって意見が異なる可能性があるとしています。
なお、区分処理の定めを残しつつ、区分処理を廃止する場合の利点も取り入れる、という観点からは、企業の選択により複合金融商品全体を時価で測定し、評価差額を純損益に計上できるようにすることが考えられるとしています。現行基準でもそのような処理の定めはありますが、組込デリバティブを合理的に区分して測定できない場合に限られています。
(2)SPPI要件に基づく分類アプローチ
SPPI要件とは「金融資産の契約条件により、表示されている通貨建の元本及び元本残高に対する利息の支払のみであるキャッシュ・フローが所定の日に生じるかどうか」に着目して金融資産を分類するもので、事業モデル要件と並んでIFRS第9号の分類アプローチの根幹を為す概念です。一見シンプルですが、実際に適用するには判断が難しく、ガイダンスも必要で、多くの議論もあります。そのため、次の2つの方法が示され、いずれがよいかが審議されました。
- 案1:IFRS第9号のSPPI要件に関する定め(ガイダンスを含む)をすべて取り入れ、必要に応じて補足文書等で適用をサポートする方法
- 案2:金融資産の種類ごとに取扱いを定める現行の体系を踏襲しつつ、SPPI要件を適用した場合と同様の結果となるよう個別の定めを設ける方法
なお、組込デリバティブに区分処理の定めを維持した場合、区分処理後に残る主契約部分は通常シンプルな(プレーンバニラな)性質となると考えられます。このため、区分処理の定めの維持はSPPI要件導入のハードルを軽減することにつながるとされています。
IFRS第9号の事業モデルに基づく分類を日本基準へ取り入れた場合の影響について、債権・債券を中心に検討されました。
現行日本基準では法的形態を基礎に分類した金融商品の種類ごとに、金融資産の属性及び保有目的に応じた会計処理を定めていますが、IFRS第9号ではすべての金融資産を「事業モデル」と「SPPI要件(契約上のキャッシュ・フローの特性に関する要件)」に基づき分類します。
事業モデルとは、「企業がキャッシュ・フローを生み出すために金融資産をどのように管理しているか」を示すものであり、個々の金融商品に関する経営者の意図や主張に左右されるものではないとされています。
金融資産に関するIFRS会計基準の3つの事業モデルについて、「SPPI要件」を取り入れることを前提に、ASBJ事務局が行った分析の主な内容は次の通りです。
事業モデル | IFRS第9号での測定 | 現行日本基準で該当する主な資産 | ASBJ事務局の分析結果 |
|---|---|---|---|
| 回収事業モデル(※1) | 償却原価(※3) | 債権、満期保有目的の債券 | 取り入れる利点がある
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| 回収及び売却事業モデル(※2) | その他の包括利益を通じて公正価値(※3) | その他有価証券(債券) | 大きな支障はない
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| その他の事業モデル | 純損益を通じて公正価値 | 売買目的有価証券、トレーディング目的の債権 | 債券:大きな支障はない
債権:懸念あり(※4)
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(※1)回収事業モデル:契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融資産を保有することを目的とする事業モデル
(※2)回収及び売却事業モデル:契約上のキャッシュ・フローの回収と売却の両方によって目的が達成される事業モデル
(※3)SPPI要件を満たす場合
(※4)この点については、今後、公正価値オプションの導入の論点と併せて検討される予定です
フェーズ1で検討項目として挙げられていた、「負債性金融商品と資本性金融商品の区分」が取り上げられました。次のような点を踏まえ、IFRS会計基準の「負債と資本の区分」についてのアプローチを取り入れるのではなく、現行日本基準を踏襲し、金融商品の法的形態を基礎とする枠組みを維持することが提案されました。
- IFRS会計基準のアプローチでは、複雑な判断が要求される場合が考えられること
- IFRS会計基準のアプローチを取り入れた場合、会社法との関係の整理に懸念があること
- 現在IASBで「負債と資本の区分」について適用上の課題への対応が審議中であり、現行の要求事項は今後見直される可能性があること
あわせて、ECLモデルの適用対象外とされている金融資産(敷金・差入預託保証金、満期保有目的以外の債券など)についても、フェーズ1の検討対象とすることが提案されました。
日本基準を国際的に整合性があるものとし、減損プロジェクトを完結させる観点(※)からも、金融商品の分類及び測定の見直しに着手する必要があるとの整理が示されました。
検討を進めるにあたっては、ECLモデルの適用範囲と関連する領域(フェーズ1)とそれ以外(フェーズ2)に分けて基準開発を行うことが提案されています。これは、ECLモデルの適用範囲に影響する領域は、金融資産の減損に関する公開草案へのコメントでも優先的な検討が求められている一方、株式などは利害関係者への影響が大きく、慎重な検討が必要と考えられるためです。フェーズ2(株式など)は、フェーズ1の検討が一巡してから、利害関係者の意見を聴取しつつ、十分な分析を行ったうえで慎重に対応するとされています。
フェーズ1では、以下の検討項目が想定されています。
- 分類のアプローチ
- IFRS会計基準で用いられている「SPPI要件」及び「事業モデル」に基づくアプローチを採用するかどうか
- 負債性金融商品と資本性金融商品との区分
- 実効金利法による償却原価で測定する金融資産の範囲(ECLモデルを適用する金融資産の範囲)
- 組込デリバティブ
- 公正価値オプション
IFRS会計基準の分類及び測定の定めを導入した場合の影響について分析を進めつつ、必要に応じて米国会計基準の定めを参考に検討するアプローチがとられる見込みです。
(※)減損プロジェクトではECLモデルと不可分の関係にある領域についても検討を行いましたが、一部の領域については分類及び測定の観点からの慎重な議論が必要であることが認識されました。そのため、減損プロジェクトでは金融商品の分類に関する枠組みを維持したうえで最小限の見直しのみが行われ、例えばその他有価証券に分類される債券にはECLモデルの適用を見送るなどしたことから、結果的にECLモデルの適用範囲がIFRS会計基準より狭くなっています。したがって、これらの領域の分類及び測定を見直して初めて減損プロジェクトが完結すると整理されています。
金融商品の分類及び測定の見直しの着手に関する方向性を議論する前段階として、日本基準、IFRS会計基準(IFRS第9号)、米国会計基準の定めの比較が行われました。主要な類似点及び相違点として挙げられた点のうち主なものは以下の通りです。
候補となる金融商品(例) | ASBJ事務局の分析結果 |
|---|---|
| 金利改定頻度と参照金利の期間が一致しない債権及び債券等であって一体処理されるもの(例:一部のCMS債)(※1) | FVPL ただし、期間が一致していた場合と比べて割引前キャッシュ・フローが著しく異ならない場合等は反証可能とすることが考えられる |
| 金利改定頻度と参照金利の期間が一致しない債権及び債券等であって一体処理されるもの(例:一部のCMS債)(※1) | FVPL |
| 特定の状況で、国の破綻処理機関が保有者に損失を課す権限を持つ債権及び債券等(例:ベイルイン条項付き金融商品) | 2つの会計処理案が提示された
|
| 利息の繰延条項付きの債権及び債券等 | 繰延利息に追加利息が付かないものは、FVPL |
| 利息の支払停止条項付きの債権及び債券等 | FVPL |
| 偶発的な要素で金利が調整される債権及び債券等(例:サステナビリティ連動金利条件付貸付金) | 契約上のキャッシュ・フローが、契約条件が同等で偶発的要素がない債権及び債券等のキャッシュ・フローと比べて大きく異なる可能性があるものは、FVPL |
| 原資産の稼働状況に連動するノンリコース要素を含む債権及び債券等 | FVPL |
| 原商品プールがSPPI要件(第583回参照)を満たさない、契約上リンクしている債権及び債券等(※2) | FVPL |
| 債券と同様に取り扱われる種類株式 | フェーズ2で検討することが考えられる(このカテゴリーに含まれる種類株式の範囲が見直されることも考えられ、また株式についてはフェーズ2での検討が予定されているため) |
| 信託財産構成物である金融資産の委託者である企業における譲渡金融資産の残存部分(委託者が保有する信託受益権) | フェーズ2で検討することが考えられる(信託受益権はフェーズ2での検討が予定されているため) |
(※1)満期保有目的の債券に分類された債券の売却等が基準で定められた理由以外で行われた場合に、当該区分に分類された残りのすべての債券を他の区分(売買目的有価証券又はその他有価証券)に振り替えることを要求するなどの、有価証券の保有目的の変更に関する罰則的な定め
(※2)国際的な基準では、本来、「公正価値」と表現します
(※3)過去にその他の包括利益に計上した損益を事後的に純損益に振り替えること
(※4)「取消不能の指定」を行うことで、純損益を通じて金融商品を公正価値(時価)で測定する、会計処理上の選択肢