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生成AIやAIエージェントの活用が広がるなか、企業には、これらを個人の業務支援にとどめず、基幹業務にどう組み込むかという新たな課題が生まれています。そのとき、企業活動を支えてきたERPは、どのような役割を担うのでしょうか。
本稿では、SAP Business AI Platformを通じて見えてくるERPの変化と、その実現に向けて企業が考えるべき論点を紹介します。
ERPは「記録」から「自律」へ
ERPはこれまで、会計、購買、販売、在庫、人事など、企業活動に伴う取引や業務を正確に記録するシステムとして発展してきました。その後、ERPに蓄積されたデータを可視化・分析し、経営や現場の意思決定を支援する役割も重視されるようになりました。
AIエージェントの登場は、ERPの役割をさらに広げる可能性があります。取引や業務の「記録」から、企業の現在の状況を踏まえて意思決定の「支援」へ。そして将来は、定められた範囲で業務プロセスの「実行」へと、ERPの役割が変化していくという考え方です。
従来の業務では、人がERPの画面を開き、必要な情報を検索し、内容を確認したうえで処理を実行していました。AIエージェントが業務に組み込まれた環境では、人が実現したいことを伝えると、AIが必要な情報を収集・分析し、設定された権限やルールに基づいて処理を進めることが想定されます。
こうした変化は、単にERPの操作方法が変わることを意味するものではありません。人が手順に沿って処理を進める業務から、人の意図を受けたAIが必要な処理を組み立て、実行する業務へと変わっていきます。ただし、これは人の仕事がAIに全面的に置き換わることを意味するものではありません。求められるのは、人とAIの役割を再設計することです。
AIが人の意図を理解し、必要な業務を整理する。AIが情報を収集・分析し、定められた範囲で業務を進める。そして人は、AIが提示した結果を踏まえて重要な意思決定を行う。このような役割分担が、自律型ERPにおける業務の基本的な姿として考えられます。
AIが定型的な確認や処理を担うようになれば、人は戦略の策定、新たな価値の創造、例外的な状況への対応、顧客や取引先との関係構築などに、より多くの時間を使えるようになります。AIへ任せる業務の範囲を定め、その結果を監督しながら改善することも、人の重要な役割になります。
ERPの自律化を考える際には、「どの作業をAIに置き換えるか」だけでは十分ではありません。どの業務をAIに任せ、どの条件では人が確認するのか。AIによる処理の結果に誰が責任を持つのか。人が担う判断や創造的な業務をどのように再設計するのか。業務プロセス全体を見渡した検討が必要です。
ERPの自律化を支える経営基盤
AIが企業の業務を担うためには、AIモデルの性能だけでなく、その判断や処理を支える経営基盤が重要になります。
AIの価値を引き出すうえで鍵となるのが、「精度」「統制」「文脈」という3つの視点です。これは、SAP SAPPHIRE 2026における発表を受けてKPMGコンサルティングが整理した考え方です。
精度とは、AIが業務を進めるために必要なデータや知識を、適切な状態で利用できることです。取引先、品目、勘定科目、契約、組織などのデータが不正確であれば、AIも適切な判断や処理を行うことが難しくなります。
統制とは、AIが参照できる情報や実行できる処理を管理することです。アクセス権、セキュリティ、承認、監査などを通じて、AIが定められた範囲で業務を行う状態を整える必要があります。
文脈とは、その企業や業務に固有の状況をAIが理解できることです。同じ業務でも、企業によってルール、判断基準、例外条件、優先順位は異なります。AIが汎用的な知識だけでなく、その企業における業務上の意味や背景を踏まえて動くためには、データと業務プロセスを結び付ける文脈が欠かせません。
SAP Business AI Platformは、こうした要素を支えるAI基盤として位置付けられます。ただし、プラットフォームを導入するだけでERPが自動的に自律化するわけではありません。自社のデータや業務プロセス、権限、ガバナンスが、AIに業務を任せられる状態になっているかを確認する必要があります。
企業が直面する課題も、テクノロジーだけに限りません。どの業務にAIを適用し、どのような価値につなげるのか。どの領域から着手するのか。さらに、必要なデータや人材・スキルをどう整え、AIの信頼性をどのように確保するのか。ERPの自律化に向けては、こうした課題を一体的に検討する必要があります。
AIの導入自体を目的にすると、技術的には実現できても、業務や経営上の価値につながらない可能性があります。また、データが部門ごとに分断されていたり、業務プロセスや判断基準が担当者の経験に依存していたりする状態では、AIが参照すべき情報や従うべきルールも不明確になります。
AI活用の成熟度は、最新の機能を導入しているかどうかだけでは測れません。ビジョンや戦略、データと技術、業務プロセス、ガバナンス、人材といった複数の観点から、企業としてAIを継続的に活用できる状態にあるかを捉える必要があります。
ERPの自律化は製品や機能の選定にとどまらず、データ、業務、ガバナンス、人材を含む経営基盤全体の変革として検討するテーマといえます。
自律化を構想で終わらせないために
ERPの自律化という将来像を描いても、最初から企業全体の業務をAIに任せることは現実的ではありません。対象が広がるほど、期待する価値や必要なデータ、業務への影響、想定されるリスクを見極めることが難しくなります。
そのため、まずは自社が抱える重要な業務課題を明確にする必要があります。課題の解決にAIがどのように貢献できるかを検討し、対象となるユースケースを絞り込みます。そのうえでPoCを実施し、技術的な実現性だけでなく、業務への適合性や期待する価値を確認します。
検証後は、AIを実際の業務プロセスへどのように組み込むかを検討します。AIが実行できる処理、人が確認する条件、例外が発生した場合の対応などを明確にし、ガバナンスや統制を業務に組み込むことが重要です。利用状況やパフォーマンスを監視しながら、検証で得られた知見を次のユースケースへ生かすことで、適用範囲を段階的に広げることができます。
出発点となるのは、「どのAIを導入するか」ではなく、「どの経営・業務課題を解決するか」という問いです。こうした問いを具体化することが、自律化に向けた第一歩となります。
では、SAP Business AI Platformは、ERP、データ、AIをどのようにつなぎ、この変革を支えるのでしょうか。また、自社のAI活用の現在地をどのように把握し、どの業務から検証を始めるべきなのでしょうか。
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オンデマンドセミナーで紹介している主な内容
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執筆・編集
KPMGコンサルティング
マネジャー 小野 世紀