投資家エンゲージメントを取り巻く課題
日本企業の経営パフォーマンスの現在地
東証がプライム・スタンダード各市場の全上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営」の実現に向けた一連の対応を要請して以降、多くの日本企業が資本コスト改善の取組みとその開示を進め、企業価値向上の成果を示す動きが広がっています。
一方で、いまだ十分な開示対応ができていない企業や、開示は行っているものの目標設定や取組みの内容が形式的にとどまる企業も存在します。実際、スタンダード市場では多くの企業がROE8.0%およびPBR1.0倍を下回っており、プライム市場においても改善の兆しは見られるものの、依然としてROEの最低水準(8.0%)、PBR解散価値割れ(1.0倍)をわずかに達成したに過ぎない企業も多く、中長期的な視点から資本市場で適切に評価される水準の株価や企業価値を実現・維持し続ける不断の経営努力が求められています。
日本企業に対する投資家の視点・期待
日本企業の株価や企業価値は国際的に見ると依然として割安な水準にとどまっており、投資家からは、未だ多くの潜在的な価値向上の機会と可能性が残されていると評価されています。こうした認識を背景に、日本の株式市場では、投資家による企業価値向上への関与が強まりつつあり、その一環として、アクティビストの活動も近年一段と活発化しています。
アクティビストを含む機関投資家の多くは、日本企業が本来備えている事業基盤や競争力に照らせば、現状では十分に企業価値が市場評価に反映されていないと捉えています。加えて、その改善に向けた取組みが必ずしも迅速かつ明確に示されていない場合には、対話や提案を通じて企業価値向上を後押しする必要があると判断しています。近年では、短期的な利益獲得を目的とする従来型のアクティビズムに加え、中長期的な企業価値の向上を志向する投資スタイルも増加しており、企業に対して資本市場から求められている考え方や水準を明確にする役割を果たしていると捉えることもできます。
KPMGの支援
企業が自社の経営メカニズムに投資家の視点を適切に組み込むことは、資本市場との建設的な対話を通じて自社の価値観を共有し、収益性・資本効率性の継続的な改善と、持続的な成長に基づく企業価値向上を実現するうえで重要です。
ここでいう「投資家視点の組込み」とは、単に投資家の要求に応じることではなく、社外取締役を中心とした取締役会がコーポレートガバナンスの要として実効的に機能し、資本効率や成長性といった投資家の視点を、企業内部の意思決定プロセスそのものに反映させることを意味します。これにより、事業ポートフォリオの実効的な組み替えや、撤退・売却を含む資源配分の見直し、人材や研究開発への成長投資について、資本市場の視点を踏まえた規律ある意思決定が可能となります。
現状では、方針や戦略は掲げられているものの、事業の縮小・撤退判断が先送りされ、人材投資やR&D投資が十分に進まない一方、株主還元が相対的に過度となっている企業も少なくありません。こうした構造的な課題を克服し、投資家との間に中長期的な価値創造に向けた共通理解を形成するため、KPMGは下記の3つのアプローチを通じて、戦略的な投資家エンゲージメントの実現を支援します。
本サービスでは、単なる助言にとどまらず、投資家の評価軸に基づくパフォーマンス分析レポート、取締役会における資本配分・ポートフォリオ議論を高度化するためのアジェンダおよびKPI体系、投資家との対話内容を経営に還流させるフィードバックプロセス、ならびに成長戦略と資本政策を一貫したストーリーとして整理したエクイティストーリー等を整備し、継続的に実行可能な仕組みを構築します。
【KPMGが提供する戦略的投資家エンゲージメント支援】
アプローチ(1)コーポレートガバナンスとしてのIR体制の整備・強化
東証による全上場企業を対象としたIR体制整備の義務化の公表もあり、多くの企業において、開示や決算説明の質は着実に向上しつつあります。一方で、企業と投資家の間で重視する観点に差が見られることや、投資家からのフィードバックが経営の意思決定に必ずしも迅速に反映されていないといった課題も残されています。投資家との対話は、IR担当役員やIR部門の役割にとどまるものではありません。取締役会やCEOをはじめとする経営陣が主体的に関与し、成長投資と株主還元、短期的成果と中長期的な価値創造のバランスについて、資本市場の評価軸を踏まえた意思決定として実効的に機能させていくことが求められています。
KPMGでは、単なるIR体制の整備にとどまらず、取締役会と執行が協働し、投資家の視点を踏まえて経営判断を行うことを推進するための体制を構築します。具体的には、取締役会アジェンダや主要KPI、CEOら経営陣の報酬設計などの意思決定の仕組みに投資家の評価軸を組み込み、あわせて投資家との対話を通じて得られた示唆を経営に継続的に反映させることで、企業価値向上につながる戦略的な投資家エンゲージメント体制の構築を支援します。
アプローチ(2)投資家視点における経営パフォーマンス分析/改善策検討
かつてアクティビストは、企業にとって対処すべきリスクとして捉えられることも少なくありませんでしたが、近年では短期的な資産・資本の整理や株主還元の要請にとどまらず、事業ポートフォリオの見直しや成長戦略の策定・実行を支援するなど、より中長期的な視点から建設的に企業価値向上を促すファンドも増えています。
アクティビストの提案のすべてが企業にとって望ましいものであるとは限りませんが、企業価値向上の実現に向けて、企業のパフォーマンス改善の余地を徹底的に見極める視点や姿勢から日本企業が学べる点は少なくないと言えます。
KPMGは、こうした投資家の視点を経営に取り込むことを目的として、投資家の評価軸に基づき自社のパフォーマンスを分析し、改善すべきポイントを明確化するとともに、その結果を取締役会やCEOら経営陣の意思決定に結び付け、企業価値向上に向けた取組みを継続的に実行していくことを支援します。
投資家視点の把握にあたっては、公開情報や定量指標の分析に加え、グローバル機関投資家やファンドが重視する評価軸、対話における論点、議決権行使の判断基準等を踏まえた実践的なインサイトを活用します。これにより、形式的なベンチマークにとどまらず、実際の市場評価に影響を与える視点を経営に取り込むことを可能にします。また、投資家エンゲージメントを実効的な価値創造につなげるためには、事業戦略のみならず、資本政策やキャッシュアロケーション、財務規律との一体的な設計が不可欠です。KPMGでは、CFO機能とも連携し、成長投資と株主還元の考え方、財務目標の設定、資本効率改善のロードマップを投資家に説明可能なかたちで整理することで、経営と資本市場の間に一貫したメッセージを構築します。
アプローチ(3) 最適株主構成を考慮した戦略的投資家エンゲージメント
これまでの日本企業の多くは持合構造による安定株主化やデッド調達中心の慣行によるエクイティ層への無関心化等を背景に、株主構成や投資家に対して受動的であり、それが市場原理への耐性を弱め、場合によってはアクティビズムの参画を招く結果になっていました。
一方で、資本市場からの要請が拡大・多角化しているなかで、企業が思い描く企業価値の向上に向けた成長戦略の実現を中心に考えると、その成長戦略の根底にある想いや実現に向けた投資と還元のバランスなど、成長戦略に対して共感し支えてもらえる投資家が自社の株式を保有する状態が理想と考えられます。そのため、株主構成(および売買を検討している非株主投資家)を成長戦略の実現に合わせて、持続的な成長を支える最適な株主構成へ自発的に変革することが今後の企業経営においては必要不可欠になります。
KPMGは、企業自身が描く企業価値を向上する道筋への戦略実行を支える最適な株主構成への変革を、株主や投資家の期待値などから特定したうえで、ナラティブなストーリーを通じて共感を生み出すエンゲージメントの実現を支援します。
エンゲージメントの実現にあたっては、株主や投資家の期待値を財務・非財務の双方から属性ごとに分析するとともに、自社の成長戦略との整合性・受容性から最適株主構成に資する投資家層を特定します。そのうえで、成長戦略を構成する価値創造ストーリーやありたい姿を起点に、受容性の高い投資家層へ対話や情報発信等を通じた多角的なエンゲージメントへ踏み込みます。そして、株主と価値観を共有し、株主の自社ファン化を促進します。既存の成長戦略を発信するだけにとどまらず、投資家層の期待値を踏まえた戦略・施策レベルでの持続的な活動を図ることで、株主からのさらなる信任の獲得と長期的な関係性強化に向けた取組みを一貫して支援します。